「一人にさせないこと」
アスレチカ代表・宮越祐介氏が語ったこの言葉には、アスリートのキャリア支援に対する考え方が凝縮されている。
アスリートは、競技をしている間、多くの人とともに生きている。
監督がいる。コーチがいる。チームメートがいる。トレーナーがいる。
勝つために、ともに考え、ともに練習し、ともに戦う。
ところが競技を離れた瞬間、その「チーム」がなくなることがある。
次の仕事は何にするのか。自分には何ができるのか。どんな人生を生きたいのか。
突然、一人で答えを出すことを求められる。
宮越氏がつくろうとしているのは、仕事を紹介するだけの場所ではない。
競技の外にも、人生を一緒に考えるチームをつくることだ。
「大丈夫」より、「やってごらん」
宮越氏は、一人では不安になることも、仲間やチームがいることで踏み出せることがあると話す。
何かやりたいことが生まれたとき、
「大丈夫だよ」
と言ってもらうだけではなく、
「やってごらんよ」
と背中を押してくれる人が近くにいる。
その存在だけで、人は動けることがある。
これはスポーツの世界では珍しいことではない。
一人で練習するより、仲間と練習する。苦しいときに声を掛け合う。誰かが頑張る姿を見て、自分ももう一本走る。
人は、誰かと一緒だから超えられるものがある。
宮越氏は、その構造を競技の外にもつくろうとしている。
経営者が「新しいチームメート」になる
アスレチカでは、経営者とアスリートがつながるビジネスアスリートクラブ(BAC)を運営している。
経営者が持つのは、社会で積み重ねてきた経験だ。
仕事の知識。人脈。失敗した経験。事業をつくった経験。
それらが、競技の世界を中心に生きてきたアスリートとつながっていく。
実際に、経営者との接点から雇用につながった選手もいれば、一緒に事業を始めた人もいる。
さらにアスレチカでは、アスリート一人ひとりに担当者をつける制度も計画している。
月に一度面談する。キャリアについて相談する。時には、社会人としての振る舞いまで伝える。
一人のアスリートを、一人で社会へ送り出さないためだ。
支える側も、支えられている
面白いのは、この関係が一方向ではないことだ。
経営者はアスリートに人脈や経験を渡す。
しかし、経営者もアスリートから受け取っている。
宮越氏によれば、関わっている選手がニュースに出るだけでワクワクするという経営者がいる。
試合を見に行く。ユニフォームを買う。クラウドファンディングを応援する。
競技に向き合う選手の姿から、勇気や励みを受け取る。
支援する人と、支援される人。その境界線が少しずつなくなっていく。
持っているものが違うから、お互いに渡せるものがある。
そこには、OSUSOが大切にする「おすそわけ」と同じ循環がある。
チームは、競技場の外にもつくれる
宮越氏自身もまた、「背中を見せる人」であろうとしている。
40代になった今も、深夜に寝て早朝から動く生活を続ける。
苦しいときには、大学時代の夏合宿で走った坂道を思い出す。
そして、60歳、70歳になっても現場に立ち続けたいと語る。
言葉だけで「頑張れ」と言うのではない。
自分もやる。自分も動く。その姿を見せる。
宮越氏は、それがコミュニティを動かす力になると考えている。
競技を離れても、チームはなくならなくていい。
次の仕事を探すときも。何かを始めるときも。失敗したときも。
「やってごらん」と言ってくれる人がいる。
アスレチカが競技の外につくろうとしているのは、そんなチームだ。
人生の次の試合も、一人で戦う必要はない。
